番外:真空管5755の解説
3回のギターアンプ紹介で登場しました5755という真空管ですが、ギターアンプでは12AX7系統しか使われていないでしょうから、馴染みは薄いかと思います。
そこで今回は、5755について解説したいと思います。
5755はMT9ピンの双3極管です。
元々はWestern Erectric社(以下ウエスタンと表記)の420Aと同等管で、データシートの日付から推測すると、当初はウエスタンとRaytheon 社(以下レイセオンと表記)の両方が生産していて、後にウエスタンが無くなりレイセオンだけが生産を続けたみたいです。
データシートは著作権がありそうだから、そのまま載せない方が良いのかな。
私がいつも真空管を検索する時に使っている、
で検索すれば、PDFファイルでダウンロードできます。
データシートを読んでまず驚くのが、400~600Gに耐えるテストをしていることと、直流増幅ができること。で、生産しているのは、あのパトリオットミサイルで御馴染みのレイセオンじゃないですか。
元々の用途は、ミサイル弾頭に搭載している計算機用かな。私の手持ちで一番新しいのは1982年製造なので、それまでは需要があったということですね。
スペシャルカソードスプリングなる記載がデータシートにありまして、写真のようにスプリングでカソードを保持しています。耐高Gを達成するための工夫ですね。この造りの良さも私が好きな理由です。
DC増幅用といっても、データシートにはプレート電流特性の表が掲載されており、普通に電圧増幅段に使えます。で、50年代後半という昔から製造されているビンテージ管の割には、不人気のせいか安い。そして音が良いということで、私は好んでこれを使ってます。音の良さは、前回までの動画で紹介した通りです。
というか、これまでオーディオアンプ3台とギターアンプ6台を自作してますが、プリ管は5755か、同系統のWE420Aしか使ったことがないんです。
で、最安ではどれくらいで買えるのかというと、
【バンテック エレクトロニクス】 電子部品・真空管・真空管アンプ用パーツ販売 通販
↑私はいつもギターアンプ用はここで買ってました。80年代の製造品が1本700円です。最近HPを更新してないのが、ちょっと心配ですけど。
そして特性は、ざっくり説明すると12AX7の各耐圧や増幅率を3割減にした感じ。一番12AX7と違うのはピンの配列で、それは以下の通り
そのまま差し替えはできないということです。
私の場合は、最初から5755前提で設計やレイアウトしちゃうから関係ないのですが、もしアダプターを挟んで12AX7と差し替える場合、ギターアンプでは注意が必要ですね。
ヒーターとカソード間の耐圧が低くて、カタログデータ以下の70Vをちょっと下回る位でも発振したことがあるので、少なくとも12AX7の定格で設計したカソードフォロア段で使うのは止めた方が良さそう。
反面、プレートはカタログより耐圧が高そうなので、初段とかならいけるかもしれません。まあ機種によるんでしょうが。
欠点はもう1つありまして、ギターアンプ回路の過大入力が当たり前とか、オーディオでもSRPP回路とかで球に一杯仕事させると、盛大に電子が漏れて外に飛び出してきます。それが隣の球に飛び移って発振を起こすのですが、当初は原因が分からなくて苦労しました。球の間隔を5cm空けた位では防止できないので、 シールドは必須ですね。
この球を使ってギターアンプを設計する時のコツは、12AX7みたく頑丈じゃないので電圧の定格を守ることと、ヒーターとカソード間の電圧が60Vを超えるようだったら、ヒーターバイアスを掛けておいた方が良いとか、その位ですかね。
私の手持ち、5755とその親戚球。
左から、
ウエスタン420A クリアトップ
ウエスタン420A ゲッター付き
レイセオン5755 クリアトップ
レイセオン5755 ゲッター付き70年代製
レイセオン5755 ゲッター付き80年代製
どれだけ気に入って集めてんだよという。
何で見た目が同じなのに70年代と80年代を分けたかというと、かなり音が違うからです。オーディオに使った時の印象は、70年代まで流石420系統という繊細な音なのですが、80年代になるとレンジが狭くて特定の周波数帯が引っ込んで聞こえます。
それがギター用になると評価が逆転してしまうのが面白いところで、レンジが狭い方がギターでは中音域が張り出して聞こえて、試しに420Aを自分のギターアンプに差して試してみたら、何か平坦でパワーが無い音になってしまいました。
だからギターアンプ用には80年代製一択で、オーディオ用は420Aのクリアトップをメインに使い、他のもそれぞれ持ち味があるので、気分でたまに差し替えて使っています。