50の手習い。「オッサンの管釣りブログ」

50を過ぎてから管マス釣りを始めた素人オッサンの記録と、何故かフェラーリのメカニズム解説、自作ギターアンプやオーディオアンプの紹介、副業である執筆業のことも時々解説しちゃう。

フェラーリのメカニズム解説その23:F1システムの故障診断 機械的な原因編④

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さて今回でF1システムの故障診断の機械的な原因編は最後になりまして、アクチュエーターについて解説してみたいと思います。

油圧編でも出てきましたアクチュエーターを、もう一度おさらいしてみますと、マニュアルミッションのシフトレバーを油圧を動力として自動で動かす装置です。

内部の油圧漏れの他にも、機械的な要因で不具合が起こりギアが入らないケースもあります。それらを解説する前に、アクチュエーターの内部構造を簡単に説明してみます。

アクチュエーター内部には平行に配置された2組のピストンとシリンダーがあり、ピストンは長い棒状で、その両端に油圧を掛けることでスライドします。

これらがマニュアルミッションのシフトレバーの縦方向と横方向の動きを担当していますが、横方向に動かす方は直線的なピストンの動きを、カムによって回転する動きに変換しています。

また、実際にマニュアル車のシフトレバーを動かしてみると分かりますが、レバーを縦に動かしてギアを入れ動作よりも、その前段階である捻る動作の方が必要な力は少ないので、それに応じて2本のシリンダーは同径でなく、横方向を担当する方が小径です。

これらが合成された動きは、出力のシャフトに取り付けられたフォークによりミッション側のシフトフォークを作動させます。

この構造には、いくつかのウィークポイントがありまして、以下それを解説してみたいと思います。

 

「シフトフォークは定期的な調整が必要」 

シフトフォークは使用しているうちに取り付け部にズレが生じてきます。360以降では、そのズレを自己学習で補正する機能があって、大体3度までは勝手に補正してくれるのですが、それを超えると補正しきれずにギアが入らない症状になります。

これはテスターのパラメーターで補正値を確認すれば一目瞭然なので、テスターがあれば割と簡単に診断できます。

調整には専用の治具が必要で、テスターでセンタリングというコマンドを実行した後、フォークを固定するボルトを緩め治具に当てて、その位置で締め付けて固定するという方法です。

ただ、355F1の場合は自己学習機能が無いので厄介です。基準値から0.3度ズレるとギアが入らなくなる可能性があるという代物で、355で治具は必要ないのですが、0.3度というとジョイントしているボルトを緩めて締めるだけで簡単に変わってしまう値なので、調整する時は毎回苦労しています。

この精度で合わせなければいけないということは、例えばテスターを持っていない工場でミッションを脱着した場合、分解前にケガキ線を入れて組み立て時は元位置に合わせるとか、その程度の精度では組み立て後にギアが入らなくなる可能性が高いということです。

 

「細い方のピストン周辺部品は耐久性が低い」

シフトレバーを横方向に動かすのを担当している細い方のピストン周辺の部品は、全体的に細かくて造りが華奢です。

油圧関係でも解説した通り、内部のオイルリークはこの細い方のピストンに付けられた、径が小さく薄いテフロンシールから漏れ始まりますし、スライド方向の動きを変換するカムが破損してギアが入らない例もありました。

診断は、内部の部品が機械的に壊れていると相当厄介です。

何回も述べている通り、F1システムは何が壊れてもギアが入らない症状にしかならないので、故障診断の際は、まずアクチュエーターを分解してみるという手順にはならないです。

お約束の手順通り、クラッチ辺りから点検を始め、次はアクチュエーターに付いているストロークセンサーの交換テスト、それでも改善されない場合はアクチュエーターを分解してみることになるので、そこに辿り着くまでには結構な時間を要します。

また、アクチュエーター内部の不具合と判明しても、内部の純正部品は供給されないので、部品を製作するか、中古のパーツをストックしてそれを使用するなどの修理方法になりますので、慣れていないとかなり難易度は高い作業になります。

 

「アクチュエーター本体の変形も原因となる」

これが原因だった例は今まで2件ほどありまして、使用しているうちにアクチュエーター本体のケース部分が反るように変形してしまい、シリンダーが直線でなくなるため内部のピストンが動かなくなり、それでギアが入らなくなるという原因でした。

しかも、どちらの例でも不思議だったのは、走行距離が1台は1万km台、もう1台は7千kmで、あまり距離に関係が無かったことです。

こうなると分解修理できないのでアッセンブリー交換となり、かなり高額です。

また、このケースは診断の難易度が恐ろしく高く、上記のアクチュエーター分解に至るまでの手順プラス、アクチュエーターをオーバーホールしても症状が改善されないという時点で、最後の最後にやっとアクチュエーター交換という判断になります。

一応、交換の目安としてアクチュエーター本体が変形していないか測定してみるのも方法だとは思いますが、うちでもデータが少なく、どの位変形していたら交換という基準を設けるには至っていません。

 

次回からは、アクチュエーターの構造とオーバーホールの手順を紹介いきたいと思います。

 

 これが私手習いオヤジの著書であります。
もし解説記事が良かったと思われましたら、是非ともご購入のご検討を宜しくお願いいたします。