フェラーリのメカニズム解説その25:フェラーリ328とは、どのような車か
前回に続きまして、オートモービルカウンシル向けに書き下ろしました308と328の解説文のうち、今回は328の部分を掲載してみます。
328の解説
328は1985~1989年にかけて生産された、上記308の進化版である。
前期型においての主な変更点は、前後のバンパーやホイール、内装のデザイン、エンジンの排気量アップ、ブレーキなどである。以下それらの内容を解説してみたい。
前後バンパーのデザインは、恐らく308のアメリカ仕様で不評であった、大きく飛び出たバンパーのデザインを変更する意図であろう。308では薄いバンパーが横から見るとエッジの先端となり飛び出していた造形であったが、328ではバンパーとフロントグリルが一体化され、フォグランプやスモールランプ、ウインカーが内蔵された大き目のコンピネーションランプもバンパーに収まり、それらが幅広な面を構成し308とはだいぶ異なる印象を受ける。
内装はセンターコンソールやメーターの意匠が大きく変わり、308ではクラシカルなトグルスイッチであったのが、丸や四角を基調としたダイアルスイッチに変更され、各メーターの文字盤は白からオレンジに変わり、カラフルで80年代らしいポップな印象を受ける。それに伴い、シフトノブに刻まれたシフトパターンまで、328だけはオレンジに変更されるという念の入れようである。
エンジンは308からボアが2mm、ストロークは2.6mm拡大され、約0.2L排気量がアップされた。
ヨーロッパ仕様のカタログスペックは、
270PS/7,000rpm 31kg/5,500rpmとなり、ようやく308初期型のパワーを上回ることができた。そして、途中でエンジンは変更されることなく、モデル末期まで使われた。
308ほど煩雑ではないが、328でも仕向け地によりエンジンやインジェクションシステムのバージョンが存在し、それは上記のヨーロッパ仕様の他に、アメリカ仕様、そして当時は排ガス規制が一番厳しかったスイス向けの仕様であった。
どちらの仕様もヨーロッパ仕様より圧縮比は落とされ、ピークパワーはうろ覚えなのだが、アメリカ仕様で255PS前後、スイス仕様では更に下がって245PS前後だったと記憶している。
当時の日本や中東向けはアメリカ仕様がベースであり、リアバンパーに放熱のスリットやエアのアウトレットが設けられている点が外観の識別点だ。
フィーリングは308クワトロバルボーレと同様、手軽に高回転で走れることが、とにかく楽しいエンジンである。また、エンジン本体に関しては頑丈で、かつメンテナンスが容易であることも特筆できる点だ。同時期の12気筒ミッドシップや、後の348や355のように、タイミングベルトを交換するためにエンジンを脱着する必要が無く、308や328はタイヤとホイールハウスを外した隙間から、大抵のエンジンメンテナンスを行えてしまい、それはエンジンに限らずクラッチの交換でも同様だ。
そのため、30年以上経った現在でも(あくまでもフェラーリ同士の比較であるが)328はメンテナンスのコストが掛からず、フェラーリの入門に最適なモデルである。
ブレーキはサイドブレーキとブレーキキャリパーが変更されている。
328のサイドブレーキは、独立したブレーキドラム方式に変更され、308までのブレーキキャリパーと一体型であった品と比べると、劇的に制動力は向上した。また、308でセンターコンソールに位置していたサイドブレーキレバーは、運転席ドア側の横へと移動した。
サイドブレーキは改良された反面、308では4輪共に対向ピストンであったブレーキキャリパーは、328では何故か4輪共に1ピストンの片押しキャリパーへ変更されてしまった。そうなった背景は不明であるが、単なるコストダウンなのか、それとも後に追加されたABSの特性に合うキャリパーがこれしか無かったのか、釈然としない変更である。
上記が308から変更された主な点と、シリーズを通して共通な部分である。以下は年式による仕様の違いを解説してみたい。
1987年までの初期型は、308と共通のサスペンションの部品が多く、サスペンションアームに至っては、308のみならず246GTと共通の品まで一部存在している。
1988年以降のサスペンションアームは、328専用の延長された品へ変更された。
その手法は、トレッドの寸法を変更することなく、フレーム側の取り付け位置とホイールのオフセット変更で伸びた寸法を吸収しているため、初期型のホイールは凹面で、後期型は凸面となり、それが外観の識別点となる。
それと同時にABSがオプション設定された。これはATE社製で、ポンプで加圧したブレーキフルードをアキュームレーターに蓄圧し、それをブレーキブースター機能やABS作動時にペダルをキックバックさせる動力にするという、独特な構造のシステムであった。
外観ではホイールの他にも、ドアを開けるノブの形状が内外共に変更された。前期型の外側ノブが収まる窪みは、ドアパネル自体を鈑金する方法で成形してあり、いかにも手間が掛かりそうな手法であったが、その工程を簡略化する目的であろう。鋳造で造られた別部品をネジ止めする構造に変更され、その部品の周囲がパッキンである黒い樹脂で縁取られている。
前期型では内側のノブがグリップの裏に隠れていて、それが単純に分かりにくいからだろうか、見やすい位置に変更された。
その後1989年には、サスペンションのダンパーが、ガスが封入されていない複筒式であるコニ製から、高圧ガスが封入されたビルシュタイン製へ変更された。それに伴い、フレーム側も上部マウント形状が変更されている。
それまでは、それほど良くない路面追従性を踏まえて、タイヤと相談しながらコーナリングするのが、良くも悪くもフェラーリのハンドリングという認識であったろう。それが、サスペンションが良く動くためか、ふわふわと浮いているかのようで当たりが柔らかいが、姿勢変化のスピードは抑える動きへと激変した。
ただ、このダンパーは1989年に生産された全ての328に装着されている訳ではないので、装着車はレアな存在である。
以上のように、308からの変更点はエンジンの排気量、内外装のデザイン、サスペンション、ブレーキなど多岐に渡り、特にサスペンションはDinoの時代も含め20年ぶりの刷新で、フレームワークから変更するという大掛かりなものであった。
それは、308では時代に合わせたエンジンを短期間で開発し投入し続けるという事態になり、サスペンションの開発まで余裕が無かったことを意味しているのかもしれない。
とすれば、紆余曲折を経た308が、ようやく328と名前を変えながらも完成に至ったということである。
これが私手習いオヤジの著書であります。
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