フェラーリのメカニズム解説その13:フェラーリのドライサンプ潤滑方式
上の写真はF40のエンジン内部に組み込まれた、ドライサンプ方式で潤滑を行うためのオイルポンプだ。
まずはドライサンプの構造とメリットを簡単におさらいすると、一般のエンジンではエンジン内部の潤滑を終えたオイルは、重力によりエンジン下部に設けられたオイルパンに溜まり、そこからまたポンプで圧送され再度エンジン各部に送られる。
そのためエンジンの最下部には、オイルを溜めておくスペースが必要となり、それがエンジンの全高、即ち重心位置を高める要因となっている。
そこで、オイルパンの底はクランクから極力近い位置にして、エンジンの潤滑を終え下に落ちてきたオイルをポンプで即座に吸い取り、別に設けられたタンクに移してからエンジンに再圧送する方式がドライサンプであり、その最大のメリットはエンジンの重心位置を下げられることである。
この方式の場合、
エンジンからオイルタンクに送る量>オイルタンクからエンジンに送る量
でないと成立しないため、フェラーリの場合は同サイズのオイルポンプ3個のうち、2個をタンクへの圧送用、タンクからエンジンには1個を割り当てている。
オイルパンから吸い出す方は倍の容量を持つため、オイルと一緒にクランクケース内部の空気も吸い込むので、ブローバイにより上昇するクランクケース内部の圧力を下げられるというメリットも併せ持っている。
フェラーリで潤滑方式がドライサンプとなったのは、12気筒は512BB以降(365BBはウエットサンプ)、V8は308の初期型以降に採用されたが、途中ウエットサンプに戻った経緯がある。
そして、どちらもエンジンの下にトランスミッションをレイアウトした2階建て構造であり、仮にオイルパンを無くしたところで下にミッションが位置することに変わりはなく、それは上記のメリットを享受するためのドライサンプ化ではなかったということだ。
そこで理由を考えてみると、当時のエンジンはピストンクリアランスが恐ろしく広く、500km走行当たりで1Lオイルを消費しても、それが正常の範囲内という代物であった。それは、オイルのチェックをせずに3,000km走行すると、オイル量が半分になっている可能性もあるということだ。
エンジン下部にトランスミッションが食い込むように存在するため、オイルパンの拡大には限界があり、別体でオイルタンクをリザーバータンクとして設け、オイルの全容量を増やす手段としてのドライサンプ化であったと私は想像している。
実際365BBと512BB、308初期型と後期型のウエットサンプのオイル容量を比較してみると、どちらもドライサンプの方が2L程オイル容量が多くなっている。
また、同時期のFRモデルに搭載されるコロンボ系のエンジンは、大きく左右に張り出したオイルパンを持つという特徴があり、コロンボ系最後の412では、何と14L以上ものオイルパン容量があり、それが最後までドライサンプ化されなかった理由であろう。
その後、ドライサンプ化による真のメリットを享受できるようになったのは、エンジン後にトランスミッションが位置する、オーソドックスな縦置きミッドシップレイアウトに変わった時点からで、モデルでいうと288GTO、カタログモデルではそれから5年程後の348以降である。FRモデルでは更に5年後の456GT以降で、これらのモデルに共通するのが、エンジン内部にオイルポンプを納める方式だ。
余談だが、288GTOではリアフェンダー左右に同じようなフラップが配置され、片側は燃料の給油口、もう片方はエンジンオイルタンク口で、そこからオイルのレベルチェックや補充を行う。スペチアーレというガチな車造りの中で、こういった遊び心も忘れないのが、私が30年以上もフェラーリばかり触り続けて飽きない理由の1つなのだろうと思った。
その後V8は360モデナまで、12気筒は2シーターが575まで、4シーターは612まで同様の構造が踏襲された。
その後のモデルである、430、599では更なるエンジン低重心化の追求が行われた。4シーターではFF以降となる。
それまでエンジン内部に存在したオイルポンプはエンジン外側の横に移動し、更にウォーターポンプと同軸に配置された上、オイルパンとクランクキャップが一体化された。それはより踏み込んでクランク下の寸法を極力少なくするために、レーシングカーの手法を用いたということだ。
特に430では、それに伴いクラッチの直径を小さくするため、小径のツインプレートクラッチを採用している。
その後は、同様の手法を継承し現在に至っている。
これが私手習いオヤジの著書であります。
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