フェラーリのメカニズム解説その20:F1システムの故障診断 機械的な原因編①
さて、溜まっていた釣りの記事を一通り掲載し終えましたので、フェラーリのメカニズム解説に戻り、引き続きF1システムの故障診断について解説していきたいと思います。
前回までで、診断の難易度が低い事例から始まり、油圧系の解説を終えたので、今回からは機械的なことが原因となるケースを紹介していきます。
「F1システムを構成する機械的な部品は」
F1システムを構成する機械的な部品は、トランスミッション本体、クラッチとレリーズ、これらは、ほぼマニュアルミッションと同様な構造で、共通部品も多いです。そこに、F1システム特有の部品である、変速を行うアクチュエータがミッション横に取り付けられています。
アクチュエーターについては、油圧を動力にして機械部品を動かし、そのストローク位置情報をECUに送っているので、油圧、機械、電子制御それぞれの要素を持ち合わせているため、この章では機械的な事項に限って解説します。
「機械的な部品の不具合を判断するのは、ノウハウの積み重ね」
テスターで呼び出すエラーは、各センサーの断線やショート、センサーの値が基準値から外れているケースでしか表示されないので、例えばクラッチがダメでも直接センサーが付いていないので、クラッチ不良とは表示されません。ですから、機械的な部品の不具合を判断する際には、各センサーの役割を理解することは無論、その車のセンサーが読んでいる値は正常な車の数値と、どれくらい違っているかという基準で判断する訳です。
となると物を言うのはデータの蓄積であります。例えば一番シビアな例では、シャフトのセンター位置が0.5度ズレているとギアが入らないこともありまして、それを判断するには、システムを理解していないと無理なケースが多々あります。
「根本にクラッチの発熱量が多いという原因がある」
それらの構成部品のうち、トランスミッション本体に原因があることは稀で、私のところではミッションまで分解修理を行った例はなく、人間がシフトレバーを動かすより相当早いスピードでギアを叩きこんでいるのに、意外と丈夫なもんなんだなあ。という印象です。
機械的な部品で不具合が発生する件数を多い順に並べると、レリーズベアリング、クラッチ、アクチュエーターの順です。
機械的なトラブルが起こる根本的な原因は、制御の限界により発進時の半クラが長く、それでクラッチからの発熱量がマニュアル車よりも格段に大きいことです。
その熱の影響で、レリーズベアリングやクラッチカバー、ディスクなどを変形させてしまうことにより、機械的にクラッチが切れないとか、取り付けられているセンサーの信号に部品変形分の誤差が出てしまい、その信号を基にECUはクラッチ制御をするため、レリーズのストローク不足でクラッチを押し切れないなどの現象が起こり、その結果、マニュアル車でいうところの、クラッチペダルを半分くらいしか踏まない状態ではギアが入らないのと同じ理屈でギアが入らなくなります。
「アクチュエーターの定期的な調整を怠ってもギアが入らなくなる」
また、これは発熱とは関連が無い例ですが、アクチュエーターの機械的な作動部分は、定期的にセンタリングのチェックを行い、基準値から外れている場合は調整を行う必要があり、それはマニュアル車でいうところのシフトレバーの位置です。それは、シフトゲート付きのシフトレバーで、ゲート内にレバーが綺麗に収まっていないとギアが入らないイメージで大体合ってます。
稀にアクチュエーター内部の機械部品破損が原因だった例もありましたが、それは別にアクチュエーターだけを解説する章を設けますので、そこでまとめて解説してみたいと思います。
以上の内容を次回から詳しく解説していく予定で、まず次回はレリーズベアリングについて、その後はクラッチやクラッチカバー、アクチュエータの順で解説していきます。
これが私手習いオヤジの著書であります。
もし解説記事が良かったと思われましたら、是非ともご購入のご検討を宜しくお願いいたします。