50の手習い。「オッサンの管釣りブログ」

50を過ぎてから管マス釣りを始めた素人オッサンの記録と、何故かフェラーリのメカニズム解説、自作ギターアンプやオーディオアンプの紹介、副業である執筆業のことも時々解説しちゃう。

フェラーリのメカニズム解説その7:Dino 206GTのエンジン

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Dino 206gt engine

写真は、Dino 206GTのエンジンをミッションも含めオーバーホールするために、ボディーから降ろしているところだ。
この135Bという型式名を付けられたエンジンは、Dinoブランドと共に登場した。

206GTで初めて横置きエンジンとエンジンの下にミッションを配置するレイアウトを採用し、それは1989年の328生産終了まで20年以上続いたため、エンジンも後のV8と同じ系統と思われるかもしれないが、実は全くの別物であり、その設計は当時標準とされた高性能化の手法を突き詰める工夫が各部に見られ、それを実現するために膨大な手間を費やしている。

以下、具体的な例を挙げてみたい。

クランクの造りは独特である。65度という変則的な角度のV型であるが、ピストン全体の動きはバンク間において位相のずれはなく、例えば3番(後バンクの一番左)シリンダーが上死点の時は、4番(前バンクの一番右)シリンダーも同時に上死点となる。それは、左右バンクで位相を変えたクランクを採用することで実現している。

これは、1つのクランクピンを両バンクで共有した、120度バンクのピストンの動きと同じにするために、複雑な造形で製作に手間が掛かるクランクシャフトを採用したということである。その目的は、エンジンをコンパクトにするため、バンク間にはキャブレターが納まるスペースだけあれば良いという発想で、徹底的にバンク角を少なくすることに拘った結果であろう。

ピストンは肉厚が薄い軽量な品を使い、コンロッドも同様に軽量で短い。

それらの数値は、ボアが86mmの精密鋳造されたピストン重量は、実測値で350g程度、コンロッドは限界まで軽量化の肉抜きが施され、これも小端部ブッシュ付きの実測値で300g程であり、特にコンロッドの重量は驚くことに、後のF355で軽量を謳って採用されたチタンコンロッドより100gも軽量である。

また、当時の高出力エンジンの証となっている半球形燃焼室を採用しており、より精密な半球形を実現させるためであろう。バルブ傘径が大きいインテークバルブは角度を立てて配置され、エキゾーストは燃焼室端ギリギリに角度を寝かせて配置されている。

そのためバルブの挟み角がインテークとエキゾーストで異なり、バルブの全長も異なっている。後のモデルではプラグ位置を燃焼室中心から大きくオフセットすることで、より大径のバルブを採用しているのだが、この135Bエンジンの場合は、プラグは燃焼室センターの極力近くに配置するというのが優先事項だったようだ。

主な特徴を数点考察しただけでも、並々ならぬ情熱と、当時に持ちうる最高の技術を注ぎ込まれて造られたエンジンであるとこは間違いない。レーシングカーのエンジンをデチューンした出自というのは、恐らく本当であろう。

このエンジンを一言で表現すると、宝石箱である。