50の手習い。「オッサンの管釣りブログ」

50を過ぎてから管マス釣りを始めた素人オッサンの記録と、何故かフェラーリのメカニズム解説、自作ギターアンプやオーディオアンプの紹介、副業である執筆業のことも時々解説しちゃう。

フェラーリのメカニズム解説その16:F1システムの故障診断③ 解説に当たり迷信の類を排除する

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早く釣り行きてー。と思いながらも、F1システム故障診断の原稿を進めている手習いオヤジであります。

そういえば、F1システムを診断するに当たっての前提を解説していなかったなと思いまして、今回は具体的な症例でなく、業界では何故か標準になっている迷信の類と、実際に故障診断する立場との認識のギャップについて話を進めていきたいと思います。それらを今のうちに整理しておいた方が、今後深い話を進めるに当たって必要だからと判断したからであります。

 

キルスイッチをカットしたは、対処法にならない」

まず、F1システムで警告灯が点灯したときは、その消去にはテスターを必要としません。エラーのメモリーは残りますが、不具合が解消されれば警告は即時消灯する構造となっています。

あと、バッテリーのカットオフスイッチ(以下キルスイッチと表記)をカットしてみることが、F1システムをリセットする簡易的な手法と思っている人が多いですが、これは間違いです。出先でギアが入らなくなったとかの問い合わせで、

キルスイッチを切ってみたけどダメでした。」

と言われることが多いので、誰かが間違った知識を広めているのだろうなと。

F1システムは随時書き換わる学習データの種類は多く、例えばクラッチウエアやシフトを動かすアクチュエーターの作動角補正データ、クラッチをミートするポイントの位置などありますが、これらはバッテリーを短時間外したところで消去される訳ではありません。

もしキルスイッチを切ったことで、ギアが入らなかったのが入るようになったとすれば、それは電源を遮断したからではなく、エンジンの熱が加わると起こるタイプの不具合で、待ち時間中に不具合を起こしている部品が冷え、正常な作動に戻ったケースが大半でした。

 

「テスターで呼び出せるクラッチウエア値はアテにならない」

テスターを繋ぐとクラッチの使用量を呼び出すことができ、フェラーリの場合は使った分量がパーセント表示されます。それをテスターの表記に習いクラッチウエアと私も表記します。

このデータの存在は大変分かりやすいことからでしょう。現状は「クラッチ残りパーセント」みたいな呼び方で、本来の故障診断とは関係無いところでデータが独り歩きしている感があります。

クラッチは何パーセントまで使えますか?」

という質問は非常に多いです。

流石に90~100パーセントとかになっていると交換した方が良いですとアドバイスさせて頂きますが、それ以外では私は別にここまでという基準を設けていないので、そう答えると不思議そうな顔をされてしまいます。

業界では、まことしやかに50パーセントで交換みたいな情報が広がっていることに対してのアンチという意味合いもありますが、その根拠をこれから解説してみます。

 

クラッチの厚さを直接測るセンサーは存在しない」

F1システムではクラッチの厚さを直接測るセンサーは存在しません。 

クラッチを交換した際は、その位置データを記憶させるのですが、それはレリーズストロークセンサーの位置で、クラッチが消耗するとクラッチカバーが飛び出してくるので、その寸法を計算して擬似的にクラッチの消耗としている訳です。

理論的にはそれでOKなんですが、理論と違うのはストロークセンサーが付くレリーズベアリングや、その相手方となるクラッチカバーが、理論でいうところの剛体ではないことです。

磨耗や熱にによる変形までは、クラッチの残りを計算するのに考慮されないため、理論と実際が乖離していき、使用を続けるに従い誤差が拡大するのです。

 

クラッチストロークセンサーの消耗特性」

その、クラッチウエアを決めるストロークセンサーからの信号は、上記の理由により誤差が発生する上に、センサー自体も加熱を繰り返され劣化してくると信号の値が変わるという特性を持ち、クラッチの残りが大きい方に誤差が拡大していきます。

具体的な例を挙げると、信号がおかしくなったストロークセンサーを交換した後にクラッチウエアを見てみると、交換前は60%だったのが、交換後は80%に増えていたこともありました。

以上をまとめると、クラッチウエアというのは、その固体のマイルールであって、他の車と同一の物差しで測っている値ではないということです。

 

クラッチ交換になるケースは」

今までクラッチ交換になったケースを整理してみると、クラッチウエアの値とは関連が少なかったです。マニュアルミッションのようにクラッチが滑ったら交換という訳でなく、F1システム特有の、特に渋滞時では半クラの時間が長いことにより、クラッチからは多くの摩擦熱が発生します。その影響で周辺部品も変形や磨耗が進み、滑るよりはクラッチが切れなくなって交換したケースが大半となります。

また、クラッチ交換と判断した時のクラッチウエアデータを調べてみると、30~100パーセントと範囲が広かったことからも、クラッチウエア偏重は間違いと言えます。 

 

「テスターは万能ではない」

 ギアが入らないトラブルを診断する際、

「テスターでリセットしたのに動かないの?」

と言われることが多いです。テスターは万能でありエラーをリセットすれば復活するみたいな感覚を持っている人が多いんだなと。

「テスターでリセットしたんでこれで様子見てください。」

みたいなトークが多用されちゃってることも、一因になっているのではと思います。

特にF1システムを診断する場合には、テスターは無いと困る品でありますが、所詮はツールです。要は聴診器やレントゲンを使っただけでは病気が治らないのと一緒です。テスターにより得られたデータを基に、どの部品を交換するか、それとも調整を行ってみるか、それをメカニックという人間が判断し作業を行うことで修理が完了する訳です。

 

 これが私手習いオヤジの著書であります。
もし解説記事が良かったと思われましたら、是非ともご購入のご検討を宜しくお願いいたします。